強迫性障害
強迫性障害はある考えが自分の意思に反して頭から離れなくなってしまうという強迫観念とそれを打ち消すための強迫行為が止められない病気です。戸締まりをしたかなと何度か確認してしまうといった経験はどなたでもあり得ることで、どこからが病気でどこまでが一般的な確認なのか、といったことの判断は難しいですが、ご本人、ないし、周囲におられるご家族のいずれかがお困りであれば、医療機関で相談頂くことが望ましいでしょう。
強迫観念と強迫行為としては以下のようなものが挙げられます。
不潔恐怖
- 強迫観念
- 自分の手や身体が汚れているのではという考えが浮かぶ
- 強迫行為
- 何度も手を洗ったり、お風呂に何度も入ったりする
加害恐怖
- 強迫観念
- 車で人をはねてしまったのではないかという考えが浮かぶ
- 強迫行為
- 人をはねていないか通った道を何度も確認したり、警察に人をはねていないか心配だといって相談に行ったりする
縁起強迫
- 強迫観念
- 何か悪いことが起きるのではないかという考えが浮かぶ
- 強迫行為
- 頭の中で神に祈る、特定の儀式的な行為を繰り返す
確認行為
- 強迫観念
- 泥棒に入られる、ガス漏れで大変なことが起きるのではという考えが浮かぶ
- 強迫行為
- 窓閉めやガスの元栓の閉め忘れがないか繰り返し確認する
感染恐怖
- 強迫観念
- コロナウイルス感染症や性感染症にかかってしまったのではないかという考えが浮かぶ
- 強迫行為
- 繰り返し検査を行って感染していないか確認する
また、しっくりくる、ぴったりするまで特定の行為を繰り返すようになって行動がゆっくりになったり、止まってしまうように見える状態に陥ること(強迫性緩慢)もあります。
なお、統合失調症の症状として似たような症状を呈することもありますが、専門医でも鑑別が難しいことは多々あります。時間経過を追わないと分からないことも少なくありません。
治療としては薬物療法と心理療法があります。
薬物療法はSSRIやクロミプラミンといわれる抗うつ薬を使用します。うつ病の治療に使うよりも比較的高用量の薬が必要とされることが多いです。また場合によっては一部の抗精神病薬やメマンチンが使われることもあります。
心理療法としては強迫性障害の認知行動療法が行われます。曝露反応妨害法(ERP)という技法が用いられます。確認行為をやめたり減らしたりして、一時的に不安が高まっても下がるものだと実感してもらうのですが、不安が高まることにつながる確認行為をやめる、減らすといった治療そのものに心理的な抵抗が生じやすいといえます。強迫性障害の症状によって何が困っているのか、症状が減ったり、なくなることで、何が出来るようになると良いと思っているのか、というそもそもの治療への動機付けが重要なことが多いです。
またご家族がご本人の強迫行為に巻き込まれて、ご本人の強迫性障害の症状が持続してしまうといったパターンも良く見られます。ご家族が困っているのであれば、やはり治療が必要な状況と考えられますので、医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。
醜形恐怖症
自分の体には外見上大きな欠点があると思い込み、毎日何時間も思い悩んだり、鏡の前で自分の容姿を何時間も確認したり、美容整形を繰り返してしまうといったことにつながります。人によっては、みんながいる前でご飯を食べづらくなったり、自分の容姿をさらさないように学校に行けなくなったり、部屋に引きこもったりしてしまうこともあります。また、自分の容姿であったり、匂いを気にして引きこもっているということを周囲に伝えること自体がご本人にとって苦痛であることが多く、親御さんなど周囲におられる方がご本人の行動を理解出来ないことも少なくありません。
自分の身体や体臭などがコンプレックスで外に出られないという状態に陥っている場合、適切に治療をすることで、そういった辛い状況から脱せられることも少なくありませんので、ぜひ受診を検討してみてください。
ご家族としては本人が眠れない、悲しいといっているということがあれば、そういった点を改善するために医療機関に行ってみようとご本人に声かけをして頂けると、反発されにくいのではないでしょうか。
治療としては薬物療法と心理療法がありますが、その前提として、他の疾患でも述べているように、何に困っているか、症状が減ったりすることで、何が出来るようになりたいのか、という治療の動機付けが大事になってくることが多いでしょう。
醜形恐怖症は強迫性障害と共通点の多い疾患と理解されるようになってきていて、治療も共通することが多いです。
薬物療法としてはSSRIといわれる抗うつ薬などを用いることがあります。
心理療法としてはERP(曝露反応妨害法)を行ったり、確認動作などに対して、他の動作で拮抗するようHabit reversal法を行ったりすることもあります。
本人のコンプレックスに感じているところだから、そっとしておこうと思ってしまうかも知れません。それで特に社会的に問題が起きていなければまだ良いのですが(ご本人は主観的には常に張り詰めたような気持ちでおられることが多いですが)、引きこもってしまったりといった状態に陥っている場合には、その状態が維持されると、そこから回復するのにも時間やエネルギーがかかりやすくなってしまいます。
ぜひ医療機関にご相談頂ければと思います。
抜毛症・皮膚むしり症
抜毛症は美容以外の理由で体毛を繰り返し抜いてしまう病気です。体毛を抜くことは良くないと理解しながらも、うまくその行為を止めることが出来ません。
不安や緊張の高まりが抜毛により減じる、もしくは抜毛する瞬間の感覚を確認したいといった理由で開始、持続し、やめられなくなります。
皮膚むしり症は傷が出来るほど皮膚をむしってしまい、皮膚をむしる行為がやめられず、主観的に苦痛を感じていたり、日常生活上大きな影響が出ているときに診断が下されます。
ストレスや不安を感じている場面でむしってしまう、かさぶたを剥がす感覚がよくて繰り返し剥がしてしまう、など理由は様々ですが、いずれにせよその状態が持続するシステムが出来上がってしまうため、続くことになります。
いずれも思春期・青年期での発症が多いとされ、差はありますが、女性の割合が多いことが特徴です。強迫性障害やうつ病などとの併存も多いと報告されています。
治療としては薬物療法と心理療法があります。
薬物療法としてはSSRIといわれる抗うつ薬に一定の効果が報告されたものはありますが、十分効果が挙げられるわけではありません。どうしても行動嗜癖(特定の行為から得られる刺激や安心感にのめりこみ、やめられなくなって、日常に支障を生じてしまう)的な側面があり、薬物のみで解決しようとするのは難しいと考えられます。
心理療法としてはhabit reversal法やその方法の一部である拮抗動作で対処すると言う方法を検討することがあります。もちろんストレスなどが原因になっていることもあり、それを軽減することも大切なこともありますが、原因探しをしてしまうと上手くいかないことが多いです。
今まで抜毛してしまっていたような場面で手やぬいぐるみのような触り心地の良いものを触る習慣を付ける、また抜毛しているときの感覚が良い感覚につながってしまっているような場合には、手袋をしたりすることでその感覚を味わいにくくすることで、抜毛する動機付けを減らすといったこともアプローチとしては考えられます。
いずれも自然に軽快することもありますが、抜毛の場合には、周囲からの目が気になって不登校などのきっかけになりやすいこと、皮膚むしり症は感染症などのきっかけになってしまうことなどから、一度は医療機関で相談されることをお勧めします。